マッケンジー体操の基本は、右図のようにうつ伏せに
なって腰を反らせるか、椅子に座って前かがみになるか
のいずれかの方法で腰痛を治そうというものです。
日本腰痛学会雑誌, Vol.11 (2005), No.1 pp.59-63
マッケンジー体操の動画
本当にこんなことで腰痛が治るのか?という疑問を抱
く人もいると思います。私自身はこれで治療を行ってい
ないのでデータは持ち合わせていませんが、この治療法
の成績はいろいろ報告されています。(下記文献参照)
日本腰痛学会雑誌, Vol. 14 (2008) No. 1 pp.112-114
マッケンジー体操は世界的にも認められており、その治療効果は疑う余地
の無いものだとは思いますが、納得いかないのは、その理論的背景です。
それは、
1.後屈で痛みの出るのは椎間板性腰痛であり、後屈運動で改善する。
2.前屈で痛みの出るのは椎間関節性腰痛であり、前屈運動で改善する。
3.マッケンジー体操は腰椎の自然な前弯を回復することにより腰痛を治癒させる。
注:腰椎の自然な前弯=腰椎が軽く後ろに反った状態
という3点です。それぞれの点について私の見解を述べてみます。
1.⇒ 後屈運動では、椎間関節が支点になり椎間板を引き伸ばす力が働くので、確かに椎間板の膨隆
が引っ込む可能性はある。しかし、それは一時的なものであって、後屈をやめればもとに戻る。
このような後屈運動で椎間板に基づく痛みが簡単に治まることは考えにくい。
2.⇒ 前屈運動では、椎間板が支点になり椎間関節を引き伸ばす力が働くが、これですぐに椎間関節
の動きが改善して痛みが改善する理由にはならない。(例えば、膝関節に痛くて動きが悪いか
らといって膝関節を引っ張ることで関節の動きが改善して痛みが取れる保障は無い。)
3.⇒ 腰椎の自然な前弯が回復するのは、疼痛が消失した結果であって、疼痛が消失する原因ではな
い。椎間板自体には腰椎の前弯を保つ力は無いので、椎間板の状態が改善したからといって前
弯が回復することは無い。前弯を支配するのは筋肉や靭帯なので、疼痛が無くなり筋肉のバラン
スが正常になれば、前弯が自然な状態に回復する。(もちろん、圧迫骨折による椎体の変形や高
度な変形性腰椎症などがなければ。)一方、変形性腰椎症で腰椎の前弯が減少した人でも腰痛
のあまり無い人も結構いる。
それでは、なぜマッケンジー体操で腰痛が治るのか?
私は、後屈して痛みの出るのも前屈して痛みのでるのも、実はほとんどが筋・筋膜性腰痛ではないかと考えています。
筋肉が固くなって痛む状態を改善するのには、筋肉のストレッチも必要な場合がありますが、大切なの筋肉をいかに緩めるか
ということです。マッケンジー体操で後屈する場合、多裂筋など腰部の多くの筋肉が緩んだ状態になります。
これは背筋トレーニングのために体をそらせるのと違って、マッケンジー体操では手で体を支えて筋肉を緩めた状態で背屈する
ことに意味があるのではないかと考えています。また、前屈では腸腰筋など一部の筋肉がゆるみます。腰かけて行うのは、
@骨盤が安定するので余分な筋肉を働かせないですむ、A膝を曲げて行うので臀部〜大腿後面の筋群(ハムストリングス)
に緊張をかけずに行えるという2つのメリットがあります。つまり、マッケンジー体操は腰痛を生じさせる
筋肉の緊張をゆるめ、腰痛を改善するというわけです。これは、オステオパシーの
間接法やストレイン&カウンターストレインの考え方に通じるものがあると思います。
以上はあくまでも私個人の考えですが、これを立証するためには同じ症状を異なった治療法(たとえばトリガーポイント注射など)
で効果を比較することが必要(今の医療技術では適切な検査法が無いため)です。
この点について、機会があれば取り組んでみようと考えています。